やまがた観光復興元年

第1部・逆境を乗り越える[5] 経営者の決断・上山

2014年01月07日
旅館経営から転身し、手打ちそば屋を営む石山正明さん。地元産の食材にこだわったメニューは人気だ=上山市狸森
旅館経営から転身し、手打ちそば屋を営む石山正明さん。地元産の食材にこだわったメニューは人気だ=上山市狸森
 雪に覆われた上山市山元地区。山あいを走る国道348号沿いのそば屋「遊行庵」(ゆぎょうあん)の静かな店内に、「とんとん」とそばを打つ音が響く。「そば粉だけでなく、店で使う食材は全て地元の物。この干し柿の天ぷら、そこの木から柿を取って作ったんです」。店主の石山正明さん(63)が、そっと庭先に指を向けた。

 石山さんは2011年10月まで、同市河崎地区で「いしやま旅館」を経営していた。祖父が1954(昭和29)年に開業した温泉宿の3代目だった。かつて農家などの湯治客を中心ににぎわい、冬場は県外から訪れるスキー客の宿として親しまれた。72年に改装、計約80人収容の客室は活気にあふれ、年商は1億円に達した。パート数人の家庭的な営業形態で、食事のボリュームがいいと評判だった。

 だがバブルがはじけ景気が低迷すると次第に客足は落ちた。生活スタイルの変化とともに湯治客も減少した。そして2011年3月11日の東日本大震災。旅館業から手を引くことを決めた。同時にそれは、そば屋経営を決断するきっかけとなった。

 上山市によると、かみのやま温泉の利用者数は1992年の75万人をピークに下降、2012年は36万人にとどまった。温泉街の旅館・ホテルの数は、現在22軒とピーク時の半分以下に減少した。石山正明さんの旅館も2000年以降は「良い時の3分の1程度の売り上げ」に落ち込んだ。

■震災追い打ち
東日本大震災の7カ月後に閉館した「いしやま旅館」。かつては湯治客を中心ににぎわった=上山市河崎3丁目
東日本大震災の7カ月後に閉館した「いしやま旅館」。かつては湯治客を中心ににぎわった=上山市河崎3丁目
 東日本大震災は、そんな状況の中で起きた。「3月11日を境に予約は軒並みキャンセルとなった。5月の連休の予約もなくなった」。館内の防火設備も更新が必要な時期だった。「費用がかさむ上、東京電力福島第1原発事故の影響を考えると、これから観光客が増える見込みはない」。先は見えなかった。

 肉体的な疲労も蓄積していた。自身と妻、数人のパートと限られた人員で、24時間態勢で宿泊客の安全に気を使う日々。フロント事務所にマットレスを敷いて寝泊まりしていた。「身が持たなかった」。体調を崩し、震災から4カ月後に閉館を決断。その年の10月に営業をやめた。

 以降、新たな道を進むべく職業安定所に通った。しかし、60歳を過ぎた身に最適な仕事は見つからなかった。そんな時、込み上げてきたのが「そば屋をしたい」との思いだった。

 2000年に入り、「旅館として何か特徴がなければ生き残ってはいけない」と、宿泊客を対象にしたそば打ち体験を始めていた。そば屋を食べ歩きしながら独学で打ち方を習得し、ロビーの一角に専用の部屋を設けて指導。客が打ったそばを夕食で提供するなど新たな試みはリピーターを獲得するほど好評だった。

 市内外で物件を探した結果、最終的に知人の紹介で上山市狸森の空き家だった民家を選んだ。自宅兼店舗に改修し、12年6月にそば屋をオープン。標高600メートルに位置し、ソバ産地として知られる地元のそば粉を活用、天ぷらで提供する野菜などの食材も地元の農家から調達している。上山の食の豊かさを前面に打ち出したメニューは、団塊の世代に人気だ。

■強いこだわり
 「遊行庵」という店名には強いこだわりがある。鎌倉時代の僧侶・一遍上人にちなんで名付けた。「漢字を置き換えると“湯業庵”にもなる。お湯の仕事をやっていたという意味を込めた」。温泉宿の経営者という過去を胸に「この地区は農作物に恵まれている。たくさんある耕作放棄地を有効活用し、珍しい野菜を栽培して住民と一緒に売り出せないか。今はそれを考えている」。再スタートを切った地で新たな構想を描く。
やまがた観光復興元年 記事一覧
文字サイズ変更
  • 小
  • 中
  • 大

県内7市発行メールマガジン登録無料

ふるさとだより

毎週木、金曜日配信中!

ニュース特集

スポーツ

教育・子育て

おでかけ

暮らし情報

twitter発信中

山形新聞からお知らせ

  1. 【2019年8大事業】
     山形新聞、山形放送の2019年の8大事業が決まりました。詳しくは、こちらから
  2. 【やましん公式FB】
     山形新聞社は、インターネット交流サイト「フェイスブック(FB)」の公式ページを新設しました。
     公式ページでは山形新聞のニュースのほか、本社からのお知らせなどを中心に紹介します。
     アドレスは、こちらから
  3. 【やましんe聞で動画視聴】
     読者限定の電子版「やましんe聞」で動画を閲覧できる新サービスを始めました。詳しくは、こちらから。
  4. ◆中学、高校の各種スポーツ大会の記録を紹介。検索機能も備えています。アクセス方法はこちら
  5. ◆探したい記事がきっと見つかる、山形新聞記事データベース。他社DB横断検索が便利な日経テレコンジー・サーチファクティバ
  6. ◆県外でも今日の朝刊が朝一で読める「お届け電子版
  7. ◆ニュース速報、高校野球、モンテ情報… 身近な情報を携帯で確認「モバイルやましん
  8. ◆故郷の話題をメールでお届け、ふるさとメール会員募集(登録無料)
山形新聞から
販売から