やまがた観光復興元年

第3部・変貌する温泉地[5] 個性ある宿(下)・四季の宿 松屋

2014年04月02日
岩がむき出しになったトンネルの先に浴場がある。「洞窟乃湯」は秘湯の探検気分を味わうことができる=大蔵村南山・松屋
岩がむき出しになったトンネルの先に浴場がある。「洞窟乃湯」は秘湯の探検気分を味わうことができる=大蔵村南山・松屋
 ポタリ、ポタリ。滴が時折落ちる洞窟を、やや前かがみになりながら歩く。むき出しの岩肌は触るとひんやりしていて、ぬめりがある。幅80センチほどと狭く、曲がりくねった通路を40メートルほど進み、見えてきたのはほんのりとオレンジ色の光に照らされた浴場。大蔵村の肘折温泉「四季の宿 松屋」自慢の「洞窟乃湯(あなゆ)」は、異界に迷い込んだ錯覚を抱かせる。

 玄関から入って右側奥にある部屋が異界への入り口だ。社長の高山松太郎さん(72)によると、浴場そのものは江戸時代中期に本家筋が裏山を掘った際に出た温泉が起源。大正時代に先祖が温泉を譲り受けたが、そこまで行くには他人の土地を通らなければならなかった。所有地だった山にトンネルを掘ったと伝え聞いている。どれほどの日数や人手がかかったのか、記録は残っていない。ただ、ごつごつとした岩肌が手作業の苦労を物語る。

 「子どものころは、叱られて連れてこられる怖い場所でもあった。しかし、今は宝物のような存在」。高山さんの長男で常務の茂さん(45)は、あなゆを他との差別化の象徴とし、10年ほど前からホームページでPRしてきた。湯治を目的とした長期滞在客に支えられてきた松屋だが、顧客の高齢化が進む中で次の世代に温泉文化を定着させる新たな取り組みも必要との思いを抱いている。宣伝効果は、若い世代からの支持拡大という形で表れた。

 先祖が残した洞窟乃湯(あなゆ)を経営戦略の武器に生かしている松屋。インターネットによって20、30代のカップルや親子連れが興味を持って訪れるようになった。「秘湯を目指して探検する気分が受けている」と常務の高山茂さん。さらに野趣を高めた雰囲気づくり、関連料理の創作に意欲をみせる。

経営の王道、常に
 一方で、隙間商品で勝負するようなことはしたくないという思いや、マニアックな存在に特化することへの懸念もある。「あなゆは知名度向上には貴重な存在だが、幅広い世代から支持を得るために接客、料理などソフト面の質をさらに充実させたい。インターネットで客の目は肥えている」。経営の王道は常に心にある。

若女将の松浦幸薫さん(左から2人目)の指導でパステルアートを楽しむ受講者。温泉旅館の新たな魅力となっている=東根市温泉町1丁目・旅館松浦屋
若女将の松浦幸薫さん(左から2人目)の指導でパステルアートを楽しむ受講者。温泉旅館の新たな魅力となっている=東根市温泉町1丁目・旅館松浦屋
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 ソフト面の充実に、アートの要素を取り入れた温泉旅館がある。東根市のさくらんぼ東根温泉「旅館松浦屋」。若女将の松浦幸薫(ゆか)さん(40)は、パステルアートのインストラクターの資格を持つ。体験講座のほか、入浴や食事と組み合わせた日帰りプランを設け、温泉の多面的な楽しみ方を提案することで個性を打ち出した。

 夫で専務の亨さん(40)が2010年、家業を継ぐために東京から東根に帰郷する際、東京生まれの幸薫さんも一緒に移った。移住の3カ月前にインストラクターの資格を取得。当初から経営に役立ててきた。

 画材のパステルをカッターなどで削って粉状にし、指で紙にこすりつけて絵を描くパステルアート。ぼやけた輪郭が独特の温かみを生み出す。受講者は幸薫さんが用意した手本を参考に、型紙の上からこすって木の幹を描いたり、めん棒の先に粉を付けて花びらを表現したり…。消しゴムで白抜きするなどアレンジを簡単に楽しめることや、二つと同じ作品ができない特性からリピート効果も高い。

生まれる好循環
 「描くときの気分で、同じ色を使っても印象が違うんだよね」「青色が濃過ぎるんじゃない? まるで夏空だよ」。会話やお茶を楽しみながら、受講者と幸薫さんが青空の下に咲く満開の桜を描く。2時間ほどで15センチ×15センチのオンリーワンの作品が仕上がった。

 体験講座のみに参加した人が温泉に親しみを持ち、家族や友人を連れて入浴に再び訪れる好循環も生まれている。「温泉の湯は体を温める。パステルアートは描くことで心の平安が得られる。どちらも、癒やしの効果があることで共通している」。温泉とアートの融合で活性化を図っている。
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