やまがた観光復興元年

第3部・変貌する温泉地[9] 源泉の管理

2014年04月06日
肘折温泉名物の朝市。県内では源泉保護のため、使用や権利譲渡を制限する地域が少なくない=2013年5月、大蔵村
肘折温泉名物の朝市。県内では源泉保護のため、使用や権利譲渡を制限する地域が少なくない=2013年5月、大蔵村
 開湯1200年の肘折温泉(大蔵村)は「三十六人衆」と呼ばれる住民だけが温泉を使う権利を持つ。もともとの源泉所有者や、源泉掘削の費用を負担した家系だ。継承できるのは権利者直系の子孫だけ。譲渡はきょうだいにもできない。肘折を離れる場合は、共同源泉を管理する温泉組合に権利を置いていくことになり、その権利も譲渡されることはない。規約はないが「習わし」としているという。

 権利者のうち旅館経営者は20人。これまでは代々後を継ぎ、守られてきた。しかし、子どもが肘折を出たり、家業を継がなかったりすれば、温泉を使える人が限られるため温泉地全体が衰退する可能性がある。今は大きな問題がなく、見直しを求める声もないというが、柿崎操策温泉組合長は「後継ぎのいない時代がくることを危惧している」と漏らした。

 温泉地の命ともいえる源泉。使用や譲渡に関する決まりは温泉地によって異なるものの、同一温泉街内の事業者にのみ認めるなど、一定の制限がある地域が少なくない。外部資本などによる乱開発を防ぎ、地域の資源である温泉を守るためだ。制限があることによる問題は「現時点ではない」とする温泉関係者が多いが、家系・地域内での後継者不足が深刻化すれば障害になる懸念がある。

 このリスクが少ない手法として注目されるのが赤湯温泉(南陽市)の例だ。市赤湯財産区を組織して源泉を管理しており、新規参入者らへの温泉の供給許可は、同財産区管理会での協議を経て市議会の承認が必要だ。公平性を確保し、新規参入を可能にしながらも地域にプラスにならない開発は防ぐ仕組みが構築されている。

赤湯温泉の源泉近くに設けられている足湯。貴重な温泉資源は地域ににぎわいを生み、住民を癒やしている=南陽市
赤湯温泉の源泉近くに設けられている足湯。貴重な温泉資源は地域ににぎわいを生み、住民を癒やしている=南陽市
 赤湯温泉(南陽市)は大正のころ、そこかしこで温泉の掘削が行われ、お湯の奪い合いがあったという。こちらが新たな源泉を掘れば、あちらが出なくなるという状態は昭和に入っても続いた。しかし、1949(昭和24)年、共同浴場を管理していた組織が湯量の豊富な源泉を掘り当てる。以降ここからお湯を分け、源泉を一括管理することで関係者がまとまった。老舗旅館・御殿守の石岡要蔵社長は「この方法なら安定して供給を受けられ、地域資源である温泉を将来にわたって守れる」と話す。

■市全体の視点
 天童温泉や東根温泉などほかの温泉地でも同様に関係者が団結しており、堀是治県温泉協会長は「山形県は東北の中でも源泉の集中管理が進んでいる」とする。ただ、多くの県内温泉地が組合などの任意団体で源泉を管理する中、赤湯は「財産区」という組織体を選んでいる点が異なる。

 南陽市赤湯財産区の管理者は市長。温泉の受給者や供給湯量が変わる場合は市赤湯財産区温泉条例を変更しなければならないため、市議会の承認がいる。温泉の供給について協議する同財産区管理会の委員7人の人選も議会の同意が必要。市全体の視点で審査される仕組みだ。

 温泉の利用者を限定し過ぎた場合、後継者不足の先には、廃業旅館の増加や温泉地自体の縮小が考えられる。新たな事業者の参入による温泉街活性化の可能性も打ち消すことになる。この点でも、赤湯は柔軟に対応している。

 廃業旅館を購入した地元医療法人による温泉利用計画を受け、2003年に条例を改正し、従来、公衆浴場や旅館などに限っていた温泉供給の範囲を介護施設にも拡大した。ほかの地域では、旅館が使っていた温泉を介護施設に活用する場合、従来の旅館経営者らが介護施設の経営に加わる形で参入するケースが多いが、赤湯では医療法人が直接受給者になることを認めた。

■枯渇防ぐ配慮
 財産区は公的な機関だが、市とは別会計だ。旅館からの温泉の使用料と公衆浴場の収入、市からの源泉管理委託料で財源を確保。財産区として職員を2人雇用し、源泉の管理と修繕、新たな源泉の掘削も行う。今年1月に湧出に成功した新源泉の掘削には約5千万円が掛かったが、全額を積み立てから用意した。

 1955年ごろからは、源泉の保護にも本格的に着手。主力源泉2本を取り囲むように地下に伏流水を注入。源泉が周囲に逃げるのを防ぎ、無駄なく使うことで枯渇しないよう配慮している。こうした例は全国的に珍しいという。

 県内の多くの温泉地は今後、源泉の湯量低下や配湯管の老朽化が懸念される。地域全体の利益を考えながら、持続的に温泉を守り、活用する仕組みづくりが求められている。
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