やまがた観光復興元年

第7部・新しい旅のカタチ[5] ミュージアムツーリング(上)

2014年08月24日
国宝・洛中洛外図屏風を収蔵する上杉博物館。県内外から多くの観光客が訪れている=米沢市
国宝・洛中洛外図屏風を収蔵する上杉博物館。県内外から多くの観光客が訪れている=米沢市
 「日本刀の最も美しい姿」と称される名刀、京の町と郊外の景観や人々の暮らしぶりを描いた洛中洛外図…。山形デスティネーションキャンペーン(DC、6月14日~9月13日)に合わせ、県内にある六つの国宝が初めて同時公開された。期間は6月14日~7月17日の約1カ月。機会を逃すまいと県内外から多くの観光客が各博物館などを訪れた。

 県内にある国宝は、羽黒山五重塔(鶴岡市)と、鶴岡市致道博物館の太刀2振り、米沢市上杉博物館の洛中洛外図屏風(びょうぶ)と上杉家文書、県立博物館(山形市)の西ノ前土偶―の六つ。羽黒山五重塔と西ノ前土偶は通年観賞できるが、ほかは実物の展示期間が限られる。同時公開は、山形DCの目玉企画の一つとして、観光事業者や自治体などでつくる山形DC推進協議会が呼び掛け、実現した。

 国宝のある施設、地域は6、7月の客数がいずれも前年同期より伸びた。上杉博物館は、国宝を展示する常設展示室の入館者が1.6倍。羽黒山は、三神合祭殿などへの参拝者を含めて1.4倍。約10%増えた致道博物館の関係者は「震災後に進んでいた入館者の減少傾向に歯止めを掛けられたことは大きい」とする。

 国宝の同時公開に合わせ、山交ハイヤー(山形市)は6月14日~7月14日の週末、食事などと組み合わせた観光バス・ハイヤー「お宝めぐり号」を運行。乗客の3分の1を県内客が占めた。地域の宝は、県民の旅行動機にもなり得ることを示した。

質、量とも充実した収蔵品を集める山形美術館。観光誘客に生かす議論が求められる=山形市
質、量とも充実した収蔵品を集める山形美術館。観光誘客に生かす議論が求められる=山形市
 世界的洋画家・藤田嗣治の巨大壁画を中心に据え、2013年9月にリニューアルオープンした秋田市の秋田県立美術館。JRのテレビCM放映を追い風に翌10月から半年で前年同期の4倍の9万2千人を呼び込んだ。美術館は多くの人の旅の理由になっている。

 文部科学省の社会教育調査によると、国内美術館の総入館者は10年度で6171万人。3年前より8%増え、増加傾向にある。一方で、地方を中心に入館者の減少に苦慮する美術館は多い。大規模な展示ができる都内の施設や、国内初の私立の西洋美術館として知られ、名作を多数持つ大原美術館(岡山県倉敷市)など有名施設に、客足が集中している状況がうかがえる。

■1枚の絵が集客
 県内にも優れた収蔵品を持つ美術館・博物館は多数ある。代表格は山形美術館(山形市)だろう。モネ、ルノワール、ピカソ、ゴッホらの絵画、ロダンのブロンズ、葛飾北斎の浮世絵と幅広い分野の逸品を集める。山形市出身で、長く観光業界をリードしてきた舩山龍二JTB相談役もコレクションを高く評価。「全国には、たった1枚の絵で集客する施設がある。これほどの作品群をPRしない手はない」と話す。

 しかし、収蔵品を展示するスペース、期間は限られる。県総合美術展(県美展)をはじめとする公募展など「地域の美術館」として県民に展示の場を提供しているためだ。コレクションは国内外の他の美術館に貸し出され、集客に活用されている。「地域の美術館の役割を十分に果たせる施設がほかにできるまでは仕方がない」と加藤千明館長(64)は悩ましげに語った。

■観光と連携課題
 山形デスティネーションキャンペーン(DC、6月14日~9月13日)に合わせ、期間中に企画展やイベントを実施する施設約50カ所をまとめたパンフレット「やまがたの宝もの 山形日和。 ミュージアム体験」が発行された。県博物館連絡協議会などで組織する「やまがたアートライン実行委員会」の事業。1万8千部を掲載施設や道の駅などの観光施設で配布しているが、誘客効果は見えにくい。観光業界との連携が課題になっている。

 本県には、若者を中心に再び注目が集まる芸術家の故岡本太郎さんの作品など、美術館や博物館ではなく、旅館や公共施設などに収蔵されている“宝”も多い。文化資源をどう地域で活用し、観光誘客に結び付けるか。議論すべき時がきている。
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