やまがた観光復興元年

第9部・農と食と[9] 西川の山菜料理

2014年10月29日
月山を中心とする山の幸で都市部の観光客を引きつける西川町。秋はキノコが中心だ=同町・玉貴
月山を中心とする山の幸で都市部の観光客を引きつける西川町。秋はキノコが中心だ=同町・玉貴
 月山の麓に位置し豪雪地として知られる西川町はキノコを含めた山の幸を「山菜」と定義し、町を挙げて売り込む。月山朝日観光協会長を務め山菜料理「玉貴」=同町間沢=の社長でもある阿部幸一さん(79)は「月山の万年雪のおかげで質の良い山菜が採れる。全国どこでも山菜は出るが軟らかさ、味ともにここは特別だ」と胸を張る。

 自賛には根拠がある。山菜は雪の消え際から順次姿を現す。懐が深く夏でも雪が残る月山は鮮度の良い天然物を長期間にわたって採取することができる。雪解け直後に芽吹く山菜の軟らかさ、みずみずしさはあらためて言うまでもない。

 同町には出羽三山信仰の宿坊が数多くあり、月山特有の自然条件を背景に山菜料理が発達し、専門店も育った。「30~40年前、出羽屋さんが先駆けとなり山菜料理ブームが起きた。県内でも100軒以上が山菜料理の看板を掲げた」と阿部さん。だが、山菜の旬は極めて短い。「多くの店が輸入物の水煮などを出すようになり、客の不評を買った」。風評被害は西川町まで及び、山菜料理の看板を下ろす店が続いた。

 逆風の中で観光客を引きつけたのは鉄鍋に入った山菜汁で味わう「山菜そば」。現在は「月山山菜そば」組合加盟の16店が、手ごろな値段で地元の山の幸を提供している。第三セクター西川町総合開発(社長・小川一博西川町長)が運営する月山銘水館でも山菜やキノコを用いた季節限定メニューを比較的低価格で出し好評を得ている。

 一方、観光客の嗜好(しこう)は幅広く、手間を掛けた高級感のある食事を求める人もいる。玉貴は仙台圏を中心に、こうした需要を引き受ける。「仙台での宣伝は40年ほど前から続けている。県内でも大事なお客さまをもてなす際に利用してもらいたいと考えてきた」と阿部さん。提供するのは本格的な日本料理。調理担当の阿部誠専務(47)は「山形牛や庄内浜の魚介など本県の豊富な食材も取り入れているが、全ては山菜を昇華させるための脇役。食べてもらいたいのはとにもかくにも月山の恵み」と話す。山菜が主役の座を譲ることはない。

 西川町間沢の山菜料理「玉貴」で調理を担当する阿部誠専務は「連綿と受け継がれた山菜の調理、保存法は地域の文化だ」と力説する。あく抜きなど山菜の種類ごとに最適な手順や方法があり、まるで採れたてのように戻すことができる塩蔵技術も確立されている。「文化を伝えていくのが私たちの役割だと考える」と阿部専務。節句行事と連動させた料理を提供するのも、思いの根幹は同じだ。

西川町総合開発が本格販売を開始した急速冷凍の月山筍。ギョウジャニンニクなどほかの山菜もある=同町
西川町総合開発が本格販売を開始した急速冷凍の月山筍。ギョウジャニンニクなどほかの山菜もある=同町
 ■新技術とリスク
 近年は新技術の開発も進む。町は山菜の付加価値を高めるため2012年、第三セクターの「西川町総合開発」にマイナス30度の急速冷凍装置を導入。2年間試験を重ね本年度、冷凍保存した月山筍(だけ)の販売を本格的に始めた。朝採りした月山筍をゆで、真空パックして急速冷凍することで採れたての味、香り、食感、見た目を再現できるようになった。「今夏、東京駅構内の飲食店8軒に計100キロ販売した。大きな成果だ」と同社の秋場良一相談役。県内向けには皮付きのまま提供してくれる店に販売している。「月山筍はカニと同じで皮をむいて食べることに価値がある。むき身で料理されては缶詰との違いが分からない」。

 一方で新技術の導入は旬をぼやけさせてしまう危険性をはらむ。玉貴の阿部専務は「急速冷凍は革新的な技術だが、山菜は旬に食べてこそ感動がある」とし、使用する場合は配慮が必要と指摘する。梅雨の時期、月山は雨が降ると沢が増水してタケノコが生えている場所に近づけなくなる。漁師がしけで海に出られないのと同じで、食材が入荷しない場合がある。「味も食感も変わらないので、シーズン中に雨が続いた場合などに使うのがいいだろう」。秋場相談役も「やはり旬に食べてもらうのがいい」と話し、入荷が安定しないシーズン当初の提供を想定する。

 ■「王国づくり」
 同町にとって山菜は観光客を引き寄せる食材というだけの存在ではない。本年度スタートした第6次町総合計画で掲げる、七つの重点事業の一つが「出羽三山文化復興プロジェクト」だ。この中で、山菜・キノコ料理を拡充して産業振興を図る「山菜きのこ王国づくり」をうたう。

 後藤忠勝町政策推進課長は「山を守り、山に育てられてきた暮らしに価値を見いだし大事にしていく。町はこれを“山菜学”と定義しており、さらに普及させていきたい」と話す。「山菜料理は単なるグルメではなく、西川町のソウルフードだ」と後藤課長。西川町の山菜料理は、その背景にある深い精神文化を反映させている。
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