やまがた観光復興元年

第10部・全国とどう戦うか[5] 岐阜の海外戦略(上)

2014年12月24日
合掌づくり集落の世界文化遺産・白川郷。大雪の中、多くの外国人観光客が訪れていた=岐阜県白川村
合掌づくり集落の世界文化遺産・白川郷。大雪の中、多くの外国人観光客が訪れていた=岐阜県白川村
 日本列島が寒波に見舞われた今月6日。降りしきる雪をものともせず、大型バスが次々と乗り付けた。世界遺産・白川郷(岐阜県白川村)。世界各地からの観光客が降り、散策に向かった。

 海外から日本への旅行、インバウンドが急伸している。日本政府観光局(JNTO)の調べでは、年間外国人旅行者は2013年に初めて1千万人を突破、1036万人を記録した。今年は円安などを追い風に1300万人を超える見通しだ。

 観光庁の調査による外国人延べ宿泊者を見る。13年で3351万人で、5年前の08年の1.5倍、東日本大震災のあった11年の1.8倍だ。しかし、全国一律に増えているわけではなく、東京、大阪、京都、それに北海道に集中。地方都市は大半が伸び悩んでいる。

 その中で白川郷のある岐阜県は、外国人観光客の増加率の高い地方として注目を集める。13年の延べ宿泊者は41万6740人で11年比の3.1倍。全国の伸びを上回る。この数は本県(3万7410人)の11.1倍で東北6県合計より多い。

 インバウンドでの岐阜の飛躍の背景には、県が主導した海外戦略があった。ターゲットとする国・地域を明確にし、対象ごとに手法を変えて「観光・食・モノ」を一体的に売り込む戦術だ。

白川郷にある国重要文化財・和田家住宅。内部も公開し、伝統の暮らしぶりを伝えている=岐阜県白川村
白川郷にある国重要文化財・和田家住宅。内部も公開し、伝統の暮らしぶりを伝えている=岐阜県白川村
 対象となる国・地域ごとに異なる岐阜県の売り込み手法は、観光パンフレット一つを取っても明確だ。現在、発行する外国語の観光パンフレットは8言語。海外でも知名度のある世界遺産・白川郷を前面に出したつくりはほとんどの国・地域向けで共通するものの、合わせる素材が違う。日本文化に関心の高いフランス向けには和紙のちょうちん、桜が好きなベトナム向けには桜の下で開かれた高山祭の写真を表紙に入れた。それぞれに最も響くと思われる資源を選んだ。

 同県が海外戦略を本格化させたのは2009年度。経済産業省商務流通審議官や外務省経済協力局長を歴任した古田肇知事の、2期目の目玉施策だった。実現のため、フリーで広告やイベントの企画制作、地域資源づくりを手掛けていた古田菜穂子さん(53)=岐阜市=を県庁内に新設した観光交流推進局の初代局長に招いた。古田さんは13年度から顧問となり、継続して指揮を執る。

東南アジア狙う
 限られた予算で最大限の効果を出すため、経済成長が著しい東南アジアに最初のターゲットを絞り込んだ。狙うは富裕層。中でも重点市場と位置付けたのが、シンガポール。その理由を古田さんは「経済、文化など多様な分野でASEANの中心で、周辺国への波及効果が期待できる。一国でみても面積が狭いために情報が伝わりやすく、富裕層からブームが広がりやすい土壌がある」と説明する。

 09年8月には、シンガポール最大の国際旅行博「NATAS(ナタス)」に初出展。10年2月にも続けて出展し、3月には東南アジアで人気のスノーレジャーの商談会に参加した。

一気に畳み掛け
 10年度に入ると一気に畳み掛ける。8月に日本大使館や日本政府観光局(JNTO)などの協力を得てシンガポールにある日本文化発信拠点で1カ月間にわたる観光PRを実施。交流会の開催や県産品の展示、知事によるトップセールスを行ったほか、日本大使公邸で県産食材を使った食事会を開いた。

 同時期にシンガポール各地で県産品や地酒の販売キャンペーンも展開。現地には県内の意欲的な観光、輸出事業者らと一緒に向かった。県がエンジンをかけた後、民間が主体的に動かなければ、持続的な活動に発展しないからだ。10、11月は旅行会社とメディアを県内に招いた視察ツアーや交流・商談会を集中実施。これら以外にも多くの事業を仕掛けた。

 施策を重ねた結果、シンガポールから岐阜県への宿泊者は13年に08年の5倍の1万150人となった。この実績が「やれば成果が出る」との認識を官民の関係者に浸透させ、岐阜の海外戦略はさらに弾みがつく。
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