山形再興

第1部・先端研究の求心力 鶴岡サイエンスパーク(4)

2018年01月07日
慶応大先端生命科学研究所で解析作業を行う技術スタッフ。大学を核とした地方創生のトップランナーとして注目を集める=鶴岡市
慶応大先端生命科学研究所で解析作業を行う技術スタッフ。大学を核とした地方創生のトップランナーとして注目を集める=鶴岡市
 安倍晋三首相が鶴岡市の慶応大先端生命科学研究所について言及したのは、去年11月27日の衆院予算委員会だった。「国内外のトップレベルの研究者を集めたことで、世界中から若者が(鶴岡市に)やって来るようになった。さらに若者たちの研究成果の中から世界トップレベルの新しいベンチャー企業が次々と生まれ、地元経済に大きな活力を生み出している」。

 地方創生と大学に関する質問に対する答弁だ。首相は「若者こそが地方の活力の源泉」とし「地方大学は(地方創生の)起爆剤となり得る」と、地域の振興を図る上で大学が果たす役割の重要度が高まっているとの認識を示した。さらに「日本全国からというだけではなく、世界中から学生が集まるようなキラリと光る地方大学づくりを進める」と述べた上で、「産学官連携による優れた地方創生の取り組みを支援する交付金の創設を検討している」と表明し、大学と連携して地域を活性化させる取り組みへの支援を強化する考えを示した。

 首相は、大学を核とした地方創生の取り組みについて、先端研を「先行事例」という言葉を使って評価した。その先端研をゼロから立ち上げるよう、鳥居泰彦慶応義塾長(当時)から指令を受けた冨田勝所長(60)は「はじめはどうなることかと思った」と2001年の創設時を振り返った。

「普通は0点」。冨田勝慶応大先端生命科学研究所長は誰も取り組んだことのない分野に挑戦する文化を大切にしている
「普通は0点」。冨田勝慶応大先端生命科学研究所長は誰も取り組んだことのない分野に挑戦する文化を大切にしている
 「東京の人は東京から出たがらない」。研究者や技術者を地方都市の鶴岡に招くことは簡単なことではなかった。慶応大先端生命科学研究所の冨田勝所長(60)は周囲から「山形でいくら頑張ってもうまくいかないよ」という忠告も受けた。東京を中心に動いている日本にあって、地方は格下にある―。公然とは口にしないまでも、学術の世界でも東京中心主義の人は多い。

 「優等生的な研究では駄目だと思った」「流行の分野で『五指に入る』ことを目指しても駄目だと思った」。既に敷かれているレールの延長上にテーマを求めた研究の未来には、オンリーワンもなければナンバーワンもない。しかし「人がやらないことをやれば1位になれる」。

 「普通」を嫌い「普通は0点」と言い切り、普通ではないことへの挑戦に価値を見いだす冨田イズムは、その後の独創的なバイオベンチャー企業の相次ぐ起業という形で萌芽(ほうが)し、安倍首相をして、大学を核とした地方創生の「先行事例」と言わしめる存在となった。

 冨田所長は、先端研が鶴岡に根付いた要因の一つに学問を尊ぶこの地の精神風土があると考えている。即効的な経済効果はないと分かっている研究機関である先端研に対し、慶応義塾との三者協定に基づき、鶴岡市は県とともに「17年間、1ミリのブレもなく支援し続けている」(冨田所長)。「今の世代のためではなく、30年後の次の世代のために種をまいている」地元自治体の姿勢を「花よりも根を養う施策」と表現した。

 サイエンスパークから始まった鶴岡の新しいまちづくりの未来について、冨田所長は「クリエーティブ(創造的)なビジネスの日本の拠点」となることを目指している。米コンピューター大手ヒューレット・パッカードが1930年代にガレージで起業したことを発祥とするシリコンバレーが、世界の最先端を走るIT産業の一大集積地として形成されるまでには長い歳月を要した。

 いっときの華美に流されることなく、地道に力を養おうとする庄内人の精神性は「沈潜の風(ふう)」と表現される。先端研は、この豊かな土壌に根を下ろし、全く新しい産業の創出による地方創生に挑み続けている。
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