山形再興

第1部・先端研究の求心力 山形大工学部(2)

2018年01月09日
イノベーター育成塾で城戸淳二卓越研究教授(左から3人目)と談笑する米沢興譲館高の生徒たち。日常では味わえない学びが成長を促している=米沢市
イノベーター育成塾で城戸淳二卓越研究教授(左から3人目)と談笑する米沢興譲館高の生徒たち。日常では味わえない学びが成長を促している=米沢市
 すっかり日が落ちた12月中旬、米沢市にある山形大工学部キャンパス内の一室は緊張感に包まれていた。「物質の構造解析装置用コイル」「沸騰熱の伝達促進」…。学部研究室に配属された米沢興譲館高の生徒たちが、それぞれの研究内容を慣れない英語で報告する。聞き手の工学部関係者との質疑応答も英語だ。答えを表現できず、沈黙の時間が時折流れる。「できなくて当然。こういった経験が大事」。終了後、力を出し切った生徒たちにエールが送られた。

 工学部は、小中高生を対象にした人材育成事業を長年にわたって展開している。米沢興譲館との試みは「イノベーター育成塾」。同校が文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定されていることを背景に、城戸淳二卓越研究教授が塾長となり2013年に開始した。同校科学部の1、2年生が毎年参加。教授陣や大学生のアドバイスを受け、有機ELなどの最先端研究に触れながら自ら設定した課題に取り組んでいる。

 英語による報告会は、「何となく聞くことはできても話せない」という日本人の一般的な課題を踏まえ、若いうちから語学力を高めてほしいという狙いがある。最先端の研究施設で積み重ねる経験は高校生にとって刺激的だ。2年横山夏海さん(17)は「将来は科学者になりたいと思っているけれど、日常生活で科学者と接する機会はない。でも工学部の先生を目の前に学べて、進路についても相談できた」と収穫を口にした。

米沢市生涯学習フェスティバルで行われた「モバイルキッズ・ケミラボ」。多くの子どもたちに理科の楽しさを伝えた=2016年10月、米沢市
米沢市生涯学習フェスティバルで行われた「モバイルキッズ・ケミラボ」。多くの子どもたちに理科の楽しさを伝えた=2016年10月、米沢市
 米沢興譲館高生を対象にした山形大工学部のイノベーター育成塾を修了し、卒業した生徒は20人を超えた。高校では味わえないような達成感、成就感は今も心に刻まれている。塾1期生で京都大理学部理学科3年村山優也さん(20)は、当時、数学分野を得意としていたというが、塾では生物分野の研究に励んだ。振り返って感じるのは、視野を広げる大切さ。「自分がやっていることだけが正しいと思っていた中、いわゆる“専門外”に触れることができた。物事を多角的に捉えられることができるようになったと思う」。英語による発表も高いハードルだったが、やりきることで「高校生でもできる」と手応えをつかめたのが大きかったという。

 山大工学部は小中学生対象の事業にも力を入れている。子どもたちに実験を通じて科学の面白さを伝える「モバイルキッズ・ケミラボ」を2002年から実践している。理科離れを食い止めようと教員らが指導し、これまでに1500人を超える児童生徒が参加している。ケミラボを体験した小学生が米沢興譲館高理数科に進み、さらには同学部に進学するケースもみられるなど進路に大きな影響を与えている。高校生にも講師を務めてもらうなど活動の輪を広げており、当初から関わっている木島龍朗准教授は「大学の使命には『教える』だけでなく『教える側の育成』もある。高校生に活躍の場を提供したい」と話す。

 学生にとどまらず、大学が児童生徒に教える意義は何か。工学部OBの小山清人学長は「心に火をつけるきっかけづくり」と表現する。人は興味を持ったものには全力でぶつかり、能力を高めていく。だが、どの年齢で何に興味を持つかは分からない。同学部が世界に誇る先端技術を幅広い年代に触れてもらうことは、きっかけをつかむチャンスを増やすことにつながる。

 一朝一夕にはいかない地方創生を推進する意味でも、火をつける試みは重要だという。小山学長自身は和歌山県の出身。大学時代から本県に住み、西日本と比べて、山形県民はまじめで忍耐強い特長があると感じている。そんな人たちの心を一度でも揺さぶれば、諦めずに取り組んで目標を達成することができるはずだ。「地方創生には時間がかかり、根気よく続けなくてはいけない。それは、山形県民が得意なことのはずだ」
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