山形再興

第9部・空き家解消への道(5) 鶴岡市「解体補助金制度」

2018年09月30日
空き家の解体を前に、屋内の廃棄物を運び出す地元住民=今年2月、鶴岡市谷定
空き家の解体を前に、屋内の廃棄物を運び出す地元住民=今年2月、鶴岡市谷定
 老朽化し、倒壊の恐れがある危険な空き家の対策は行政だけでなく、近隣の住民にとっても差し迫った課題となっている。所有者が特定できないケースも少なくなく、判明したとしても解体するには多額の費用を要する。個人の資産が対象であるだけに、行政が関与しにくい一方で、住民は日々、不安や危険を感じているという現実がある。これを解決するヒントの一つが鶴岡市にあった。

 鶴岡市街地から8キロほど南に位置する谷定地区で昨冬まで、空き家となって倒壊の恐れがある1軒の小屋があった。数メートル先には、黄金小や鶴岡三中に通学する児童生徒が利用するバス停がある。シャッターは既にレールから外れ、風が吹く度になびいた。屋根や壁面のトタン板は強風で飛散し、通学途中の子どもたちの身に危険が及ぶ可能性が高まっていた。「何とかならないか」。地元住民から対応を求める声が上がった。

 鶴岡市谷定地区に限らず、他の地区からも倒壊の危険がある空き家対策を求める声が鶴岡市に寄せられていた。この対応として市は昨年度、「危険空き家解体補助金制度」を創設した。所有者の同意を前提に、独自に設けた「不良空き家判定基準」を満たした物件がある地域の自治組織に対して対象経費の100%、上限75万円を補助し、この支援を受けた自治会は労力を提供し、解体作業を行う。官民共同型の空き家対策で、全国でも珍しい制度という。

 谷定地区にあった小屋は、この制度を活用することで解体にこぎ着けた。当時、自治会長として奔走した阿部寛さん(55)は「自治会の各班長に『自分たちで片づけよう』と協力を呼び掛けたら、みんな『分かった』と快諾してくれた」。地元の造園土木会社にも「われわれは汗をかくから…」と支援を求めた。会社側は「みなさんにはお世話になっている」と重機などを出してくれた。阿部さんは、住民同士のコミュニティーがしっかりと保たれているからこそ、この制度を活用することができたと考えている。

 初年度の2017年度は、谷定地区を含め4棟の空き家がこの制度によって解体された。2年目となる本年度は、不良空き家の簡易な修繕や樹木伐採、除草などの管理をしてくれる地元自治会に対して材料費などの実費を支援する適正管理補助制度を創設。個人向けの解体補助制度を新たに設けるなど、危険な空き家への対策は重層化している。

 谷定地区は、湯田川と並んで良質な孟宗(もうそう)が採れる地域として知られている。だだちゃ豆や果樹の栽培も盛んだ。阿部さんは将来、農業を生かして交流人口を増やし、古里ににぎわいをつくり出したいと思っている。既にこの地区では、山形大農学部や鶴岡工業高等専門学校の学生を受け入れ、だだちゃ豆の収穫など農業体験の機会を提供している。

 「全国各地から、そして海外からも人を呼び込みたい」。阿部さんは交流人口の拡大に加え、空き家を活用した移住者も受け入れたいという夢を描く。「そのためには、この地域に住んで農業に従事して十分な生活ができる状況をつくり出す必要がある」。ブランド力のあるだだちゃ豆をはじめ、付加価値の高い地元特産の農作物にそのヒントがあると考えている。

 移住者が十分に収入が得られる環境を整えた上での空き家対策。この地域では農業の振興が、そのカギを握っている。
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