その先へ

[3]レコード針製造 ナガオカ(東根)

2015年01月18日
米粒と比べるとレコード針(左)の小ささが分かる(ナガオカ提供)
米粒と比べるとレコード針(左)の小ささが分かる(ナガオカ提供)
 ターンテーブルにレコード盤を乗せ、ゆっくりと針を落とす。奏でる音楽は温かみがあり、どこか懐かしく響く。デジタル音にあふれる今、アナログ特有の自然で味わい深い音は愛好者を魅了してやまない。

 ナガオカ(東根市)はレコード針を製造する国内唯一のメーカーだ。直径0.25ミリ、長さ1ミリ。ダイヤモンドとチタンを加工して生み出す針は米粒より、はるかに小さい。「われわれはまねのできない加工技術を追求している」と鈴木正拓社長(64)。ニッチ(隙間)な市場とはいえ、こだわりの製品は世界トップシェアを誇る。

 宝石などの高硬度難削材の微細加工技術は「ナガオカブランド」の真骨頂だ。機械でダイヤを削って研磨し、円すい状の先端に丸みをつける。微妙な角度や寸法で音が変わるため、顕微鏡をのぞきながら1本ずつ出来栄えを確認。ピンセットを使って丁寧にカートリッジを組み立てていく。

■「溶着」の確立
 ダイヤを用いるのはレコード盤の溝をなぞる先端部分。真空状態で接着剤となる金属を加熱し、ダイヤと台座を分子レベルでくっつける。この「溶着」技術の確立がレコード針の量産化を可能にした。

 ピーク時の1983(昭和58)年、製造するレコード針は月産120万本に達した。「作れば作っただけ売れた時代。とにかく忙しかった」。鈴木社長は当時を振り返る。他社がコンポ向けなどの相手先ブランドによる生産(OEM)を手掛ける中、一般ユーザー向けの交換針で市場を席巻。台座を鉄からチタンに切り替え、主流となる軽くて高性能な針も世に送り出した。

 だが、この製品が会社存続の危機を引き起こす。ダイヤが脱落する現象が相次ぎ、一時は生産停止に追い込まれた。米国まで足を運んで製品を回収したこともあった。廃業の瀬戸際に追い込まれ、「もう終わりだ」と思った。鈴木社長の偽らざる心境だ。

 どうすればダイヤとチタンがしっかり結合するのか―。問題解決が復権への最優先課題だった。脱落の原因は接着剤となる金属の電気腐食。生焼け状態のため生じた現象だが、加熱し過ぎると金属が割れやすくなるため、衝撃でダイヤが落ちてしまう。理想は接着面の外側が硬く、内側はクッションとなるような「ミディアム状態」。県工業技術センター(山形市)に通い詰め、1年かけて溶着の時間と温度の最良の条件設定を導き出した。

顕微鏡をのぞきながらの緻密な作業がレコード針製造には欠かせない=東根市
顕微鏡をのぞきながらの緻密な作業がレコード針製造には欠かせない=東根市
■盤がある限り
 時代は変わる。CDの発売・普及とともにレコードは急速に存在感を失っていく。レコード針もデジタル化の波にのみ込まれた。生産は減少の一途をたどり、月産10万本を切るまでに。時代に乗り遅れた会社とも言われた。

 親会社は解散したが、製造部門を担ったナガオカは存続した。ものづくり力に復活の望みを託したからに他ならない。「できることは何でもやった」。測定器用の端子製造やマグネット加工…。全盛期を支えた「硬くて小さいものを加工する」技術は企業としての幅を広げた。今やレコード針の売上比率は全体の1~2割ほどだ。

 近年はアナログ特有の魅力が見直され、レコード人気が再燃の気配を見せている。オールドファンも回帰傾向にある。レコード針も月産15万本超に増えた。

 とはいえ、インターネットによる音楽配信が主流のデジタル全盛の中、作り続ける意味は何か? 鈴木社長の答えは明快だ。「何よりも世界中のユーザーが望んでいる。われわれのキャッチフレーズは『レコード盤がある限り針を作り続けよう』だ」。その言葉に、ものづくり企業としての責任とプライドがのぞいた。
(ものづくり取材班)

【ナガオカ】 1969(昭和44)年に山形ナガオカとして設立。長岡精機宝石工業の主力工場として宝石を加工した時計用軸受け石の製造を行い、73年からレコード針生産を開始した。現在はダイヤモンドなどの宝石類のほか、超合金やマグネットなどの加工も手掛ける。99年に現社名に変更した。従業員は77人。2014年9月期の売上高は8億円。
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