社説

日ロ首脳会談 前のめりな姿勢を懸念

 モスクワを訪問した安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領との首脳会談で、北方領土での「共同経済活動」の実現に向けた事業案を検討するため、専門家らによる合同調査団を近く北方四島に派遣することで合意した。元島民の4島へのビザなし訪問でも、墓参の渡航手段を空路まで広げ、船で訪れる場合の入域手続きの地点も拡大することを確認した。元島民は高齢になっており、訪問がより行いやすくなることは歓迎したい。

 だが、少なからず進展があった今回の会談でも根本の課題は先送りのまま、懸案である領土問題が解決に近づいた形跡は見られない。ロシアが譲歩の兆しすら見せない中、日本側が共同経済活動に前のめりな姿勢を示すことは、領土問題を棚上げにしてもいいとの誤ったメッセージを送ることにならないか。問題解決をむしろ遠ざけることを懸念する。

 共同経済活動は昨年末の首脳会談で協議開始に合意した。日本にとっての主眼は、活動実施に当たり日ロどちらの法律にも基づかない特別なルールをつくり、双方の主権を害さない形で実績を積み重ね、信頼関係を醸成し領土問題解決につなげるという戦略だ。昨年末の会談後、安倍首相は「両国の平和条約問題に関する立場を害さないという共通認識」に基づき「特別な制度」を創設すると述べ、「協力を積み重ねていく双方の努力の向こうに平和条約がある」と強調した。

 問題は、この特別なルールにある。ロシア側はロシアの法制度を適用する考えを崩しておらず、領土問題での進展がない現状のまま北方四島で日本の経済協力が始まれば、活動にはロシアの法律が適用されることになる。これはロシア側の主権を認めることにもつながり、領土問題の棚上げが既定路線となりかねない。特別なルールづくりは3月から始まった次官級協議でも議論が進んでいないが、実務者の協議でまず、ルールづくりの決着を急ぐ必要があるだろう。

 一方、緊迫化する北朝鮮情勢は日本とロシアの関係にも影を落とす。両首脳は北朝鮮の核・ミサイル開発に対し、国連安全保障理事会の決議履行と、さらなる挑発行動の自制を働き掛けることで一致したが、両首脳の間のずれも浮き彫りになった。プーチン氏は「軍事的な圧力は自制すべきだ」と指摘し、原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海に派遣する米国と、その空母との共同訓練を実施する日本政府にくぎを刺した。

 日本が入港を禁止している北朝鮮の貨客船「万景峰(マンギョンボン)」を使って、ロシアが近く北朝鮮との間に定期航路を開く方針を示したことも、日本けん制と受け取れる。プーチン氏が提唱した核問題を巡る6カ国協議の再開については、協議の議長国・中国に対し日本側が北朝鮮への圧力を強めるよう求めており、再開は困難との見方だ。

 シリア攻撃を巡る米ロ対立でも、いち早く米トランプ政権支持を表明した日本に、ロシアは不満を募らせている。そもそもロシアから譲歩を引き出すことが難しい状況下で、日本が積極的に共同経済活動を進めることは得策ではない。停滞する領土交渉の打開を探るためにも、今はカードを温存すべきだろう。

(2017/04/29付)
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